注文住宅のトレンドの波が去った後に残る最低限の「当たり前」を満たせない工務店が淘汰される理由

住宅業界に携わって十数年ほどですが、ちょいちょいブームというかトレンドの波があるんですよね。

  • 「シックハウス問題」から、自然素材ブーム「健康住宅」
  • 「家は高すぎる」という指摘から、ローコストブーム「ローコスト住宅」
  • デザイン性が重視され始め、建築家ブーム「デザイン住宅」
  • 「家が寒い」という流れから、高気密高断熱や省エネブーム「エコハウス」

そして、ブームが起きて去った後に残る「当たり前」は、最低基準になっていきます。

例えば、自然素材は使う使わないは別にしても、選択肢として取り扱えることは当たり前になっています。

ローコストは、少し前まで「良いものを安く」という考えが当たり前になっていましたからね。枝分かれで、コミコミや定額制が出てきました。ただ、行き過ぎたローコストの反動で、付加価値を付けた高価格帯へ展開するところも増えてきました。

今転換期なのは、デザイン住宅ブームやエコハウスブームの、

  • 設計力
  • 性能

でしょう。小さな工務店の多くが苦手とする2点だと思われます。

性能に関しては、使う建材を変えればある程度解決できる話なので割愛します。また、「省エネ性能の高い住宅の普及促す法律」が成立したので、対応していかないと淘汰されていくでしょう。

目次

レベルの低い中小工務店の淘汰に待ったなし!?

2019年5月10日に、こんな法律が可決・成立しました。

省エネ性能の高い住宅の普及を促すため、注文住宅や賃貸アパートなどの大手メーカーに対し、国の基準を上回る省エネ性能の建物を供給するよう求めることなどを盛り込んだ法律が、10日の参議院本会議で可決・成立しました。

この法律では、注文住宅や賃貸アパートを手がける大手の住宅メーカーに対し、国の基準を上回る省エネ性能の建物を供給するよう求めていて、取り組みが不十分な場合には、社名を公表するなどの罰則を設けます。

これまでも、建て売り住宅のメーカーに対しては、こうした制度が設けられていましたが、今回、注文住宅なども対象となったことで、小規模な新築住宅の半数程度が対象となります。

省エネ性能の高い住宅 普及促す法律 成立

大手住宅メーカーに対し、国の基準を上回る省エネ性能の建物の供給が不十分な場合には罰則を設けるという法律です。

少し前に、「省エネ基準義務化」は見送られたわけですが、これで、最低限の省エネ品質が担保された大手と、そうでない中小という構図ができあがり、中小工務店の淘汰に待ったなし、といった状況です。

また、当たり前の基準になるので、ますます性能アピールは、大した差別化にもならなくなるわけです。

「パソコン使えない」「外注コストがかかる」などのレベルの低い言い訳をして、「省エネ基準義務化の延期」に賛成派してた人たちは、変わっていかない限り、淘汰されていくでしょうね。

ベースとなる基準として「住宅の省エネルギー基準」があり、それを上回る基準として「低炭素建築物の認定基準」、「住宅トップランナー基準」などが誘導するべき基準として設定されています。
目指すべき最終の水準は、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)とされています。これは、外皮の断熱性能を大幅に向上させるとともに、高効率な設備システムの導入により、室内環境の質を維持しつつ大幅な省エネルギーを実現した上で、再生可能エネルギーを導入することにより、年間の一次エネルギー消費量の収支がゼロとすることを目指した住宅のことです。

住宅の省エネルギー基準

「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律」(建築物省エネ法)により、住宅の建築主に対して、一定の基準以上の省エネルギー性能の実現に対する努力義務を課しているのが「住宅の省エネルギー基準」です。昭和55年に省エネ法にて制定され、平成27年には建築物省エネ法に移行されていますが、法律の改正ごとに強化されてきました。
従来は、断熱性能や日射遮蔽性能など、住宅の外皮の性能を評価するものでしたが、平成25年に改正された現行の基準においては、外皮性能に加えて、住宅全体で使用するエネルギー量の二面から住宅の省エネルギー性能を評価するようになりました。日本全国を気候条件に応じて8つの地域に分け、その地域区分ごとに基準値が示されています。

住宅の省エネに関する基準

性能以上に、最も悩みの種なのは「設計力」

そして性能以上に、最も悩みの種なのは「設計力」です。設計できなくても家は建てられるので、必要性を感じない人も多いことから浸透するのに時間は掛かるでしょう。また、本人は設計できると思っていても、その能力が低いケースだってあります。

工務店の経営者は実務のプレーヤーも兼ねてますので、当人にしっかりとした設計スキルがあることが理想です。経営者にスキルがない場合は、スタッフにその力があるといいでしょう。

結局、設計力は、自社で担うか、他社で担うか、自分が担うか、スタッフが担うかになりますので、そのためにしたほうがいいことって、そんなに複雑ではありません。

工務店が設計力を補うには、自社で担うか、他社で担うか。自分が担うか、スタッフが担うか。

「設計のできる工務店」「設計のできない工務店」とでは、やはり前者の方が、目を惹きます。

ここで表す「設計」とは、

  • 土地と予算に合わせて、間取りや形をつくれる能力。
  • 要望をコーディネートしながら、提案できる能力。

を指しますが、業界の流れから言っても、「設計」は当たり前に求められる分野になります。

自社で担うか、他社で担うか。自分が担うか、スタッフが担うか。

小規模の工務店場合は、経営者も実務のプレーヤーも兼ねてますので、当人にしっかりとした設計スキルがあることが理想的です。経営者にスキルがない場合は、スタッフにその力があるといいでしょう。

また、たとえ自社で担えなくても、外部を利用することで、補うことも可能です。

結局のところ、設計力は、

  • 自社で担うか、他社で担うか
  • 自分(経営者)が担うか、スタッフが担うか

になります。できることなら自社で担えた方が、予算感も含めてコントロールしやすいので、
理想順に挙げるなら、「自分(経営者)」「スタッフ」「他社」でしょうか。

自分で担おうとする場合、現時点で力不足であれば、勉強や経験が必要です。
ですが、一朝一夕で身に付くものでもありません。

そう考えると、現時点で力不足であれば、
経営者であるからこそ、無理に自分がプレーヤーになるのではなく、
他者(他社)の力を借りることを選んだ方が、時間もお金も有効的に活用できるでしょう。

スタッフが担う

スタッフが担う場合、現時点で適した人材がいない場合は、採用する必要があります。設計担当者がいない小さな工務店の場合、ステップアップとして最初に目指すのは「設計ができる人の採用」でしょう。

また、すでに設計ができる人材がいる場合でも、不遇を感じてしまえば、転職する可能性もあります。なので、成長しやすい永く働いてもらいやすい環境をつくることも求められてきます。

そういった環境は、採用する上でも有利に働きやすいです。いくつか挙げてみました。(自分で担う場合にも当てはまる部分もあります。)

1.建築との定期的な接触がある環境

手軽にできるのは、ネットや書籍からの情報でしょう。建築の情報を取り入れられる情報源を定期的に用意することは必要です。なので、できることなら、間取りや意匠系の雑誌やディテール集などの書籍を会社で購入し、会社に来ればそういった情報に接することができる環境をつくっておくことです。

2.設計力のある工務店や設計事務所との交流

設計関係の研修やセミナーなどに参加できる環境も求められてきます。もちろん、一方的な受け手ばかりになってインプットを続けても、学んだことはなかなか蓄積されません。

インプットしてアウトプットすることで、学びは蓄積されていきますので、インプットしたことを、自社メディア(ブログやSNS)などで発信したり、コンセプトなど方向性の近い設計力ある工務店や設計事務所と交流するなどして、アウトプットする環境になっていると、力を付けられる環境になっていきます。

3.資格を取得するためのサポートがある環境

建築士の資格取得には、お金も時間も掛かります。そこを会社でサポートすることで、向上心がある人材が集まりやすいという傾向はあります。ただし、資格取得したらステップアップのためにすぐ辞めていくという、したたかな人もいますので、その辺のリスクも考慮した上で取り入れるべきかと・・・

4.素材や設備が整った環境

すでに社内に設計担当者がいて、過去に設計したプランがあるなら、それらの素材をストックしておきましょう。「間取りのつくり方」を覚えさせるには、それらを何度もトレースさせることが一番覚えが早いです。

設計における設備だと、CADソフトになりますが、その種類は無料のものから高額なものまで様々です。経験則ですが、設計事務所などデザイン性のある設計をする人は、CADにVectorworksを使っている人が多かったです。(Vectorworksは30万円くらいします。)

安心計画(Walk in home Plus)や、アーキトレンドなど高額なものは、高機能で便利ですが、使ってきていない人の方が多いので、大抵は一から覚えてもらう手間が掛かります。なので、積算やCG化を切り離して別で考えた場合、意外と無料のJWCADが根強かったりします。

経験則ですが、CAD化が進んでいるからこそ、最初の提案時は、色付きスケッチ(色鉛筆で色付け)で提案すると、お客さんの反応が一番良かったりします。

なので、間取りをスケッチで描ける人は、かなり重宝します。高額なCADにはスケッチ機能がついているので、手書きが苦手な人はスケッチ機能で印刷した上から、色鉛筆で色付けしている人もいます。手書きやスケッチ機能まで手が届かなくても、「CAD図+色鉛筆で色付け」は効果的です。

5.お客さんと打ち合わせができる環境

設計希望者の多くは、お客さんと打ち合わせをしたいという願望があります。なので、お客さんとの打ち合わせができる環境(機会と場所)を用意しておくことも必要です。

もちろんいきなり初日では無理なので、どのタイミングで打ち合わせに参加できたり、どのタイミングで独り立ちできるかを示して、ステップアップさせていきましょう。

また、提案する場所も大きく影響してきます。雑多な事務所での提案よりも、ショールームやモデルハウスなど、コンセプトを伝えやすい空間の方が望ましいです。(対お客さんにも同じことが言えます。)

採用の候補になる該当者はどこにいるか?

ある程度の戦力ということになると、同業にいる人材が狙い所になります。例えば、設計事務所勤めをしていて、「給料も低い」「休みもない」「お客さんと打ち合わせもさせてもらえない」という人材は結構います。この場合、設計事務所に強いこだわりがなければ、引き抜きやすいです。

また、工務店でもそこそこ大きい会社の設計アシスタントだと「お客さんと打ち合わせもさせてもらえない」ということで不満を抱えている人はいます。この場合は、給与面でどう判断されるかになると思います。

他社で担う

1.フランチャイズへの加盟

設計を武器にしたフランチャイズは多々あるので割愛します。メリットは、手っ取り早くノウハウが手に入ります。デメリットは、ルールや条件もあり、費用がそれなりに掛かります。(イニシャルもランニングも)。また加盟したからといって必ず上手くいくとは限りません。

2.設計事務所との連携

設計事務所と連携することで、設計力を補います。通常、設計事務所と仕事をするとなると、設計事務所が集客した顧客の持込みで施工するケースになりますが、そうではなくて、工務店が主体となってネットワークを作っていく方法です。工務店が、顧客の価値観に合わせて、提携した設計事務所をセッティングしていく方法です。結婚相談所のアテンダントみたいな存在になるということです。また、その時の設計事務所との関わり方は、「設計監理あり」「設計監理なし」かでも変わってきます。

  • 設計監理ありの場合

施主と設計事務所が、設計契約を結ぶ方法です。工務店と施主は工事契約を結びます。施主から設計事務所に設計料、工務店に請負金額を支払います。通常、設計事務所と仕事をする流れと同じです。デメリットは、別途設計料が必要になってくるので、予算の調整が必要になってきます。

  • 設計監理なしの場合

設計委託という形をとり、契約を工務店と施主の請負工事契約のみにしてしまう方法です。その際、設計監理を省き、基本設計のみとしますので、設計契約は行いません。設計事務所は、設計監理はしませんので、基本は請負契約が締結するまでとなります。契約後に変更がある場合は、工務店で対応することになります。メリットは、「監理あり」よりは設計料が抑えられます。デメリットは、この仕組みを受け入れられる設計事務所が少ないことです。手離れがよくコスパの良い仕事なのですが、時間を掛けて設計監理までしたがるところが多いです。

3.クラウドソーシングの活用

最近では、ネットの活用が進み、設計やパースなど設計事務所の仕事の、アウトソーシングやクラウドソーシング化が進みつつあります。会っての打ち合わせや監理を省けば、設計やデザインを提供することが可能になってきています。

ただ、業界への認知や理解が足りないのか、出始めた数年前に比べると、活気がありそうなのは下記の1社ぐらいになっています。

こういったサービスを使えば、地元のよくわからない設計事務所と組むより、良いデザインや設計を頼める可能性が高くなります。ただし、届くのは図面などの素材だけですので、打ち合わせやプレゼン、コーディネートするのは、工務店になります。

ちなみに、上記サービスを運営している会社と、ハウスメーカーが提携をして、間取り提案をする実験が始まっています。

新昭和ウィザース東関東とスタジオアンビルト、建築家が注文住宅の間取り作成を行う「ウィザースホーム×madree(マドリー)」の実証実験を開始個人の間取り作成依頼だけでなく、住宅会社と提携しての間取り提供は初めての試み

建築系ITベンチャーのスタジオアンビルト株式会社(愛知県名古屋市 代表取締役:森下敬司 https://studiounbuilt.co.jp/)と新昭和グループの株式会社新昭和ウィザース東関東は、間取り作成サービス「ウィザースホーム×madree(マドリー)」の実証実験を開始する。千葉県内の2営業所で来店したお客様に「madree(マドリー)」を利用した間取りの提案を行う。

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000003.000036284.html

「当たり前」を満たせなかった工務店が倒産した例

現代の住宅市場は、常に新しいトレンドによって動いています。最近では、省エネルギー性能やデザインの優れた設計が「当たり前」とされるようになりました。このような新しい基準を満たさない工務店は、時代遅れとみなされ、市場から淘汰される可能性が高くなります。この状況を象徴するように、技術革新や市場のニーズに追いつけなかった工務店の倒産事例はよく見かけます。

適応できなかった工務店の末路

例えば、ある工務店だと、昔ながらの建築方法と古い考え方に固執していました。新しい省エネ性能の基準や、現代的な設計への理解が乏しく、これらを単なる一時の流行と見なしていました。しかし、住宅市場は急速に変化し、消費者の要望は日に日に高まっていきました。その結果、この工務店が提供する住宅は時代遅れとみなされ、顧客からの信頼を失っていきました。

省エネ技術の進歩やデザインの最新トレンドを取り入れることに消極的だったこの工務店は、旧式の手法に頼り続けました。エコハウスやデザイン性の高い住宅が市場の主流になっていく中で、彼らはこれらの変化を真剣に受け止めず、市場のニーズからどんどん遠ざかっていきました。

昔からの顧客からの支持はあったものの、徐々にその支持も薄れていきました。新しい技術やデザインに対する知識の不足、そして市場の変化に対応するスピードの遅れが、業績の低下を招きました。結局、新規の依頼は減少し、資金繰りが困難になり、最終的には倒産に至りました。

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