年間10棟前後を安定的に受注できるようになった「顧客の言うことを聞かない」工務店

日経ビジネスの工務店を特集した記事「マイホームの夢、かなえません 顧客の言うことを聞かない工務店」がすごく興味深いです。

・・・それにしても「マイホームの夢、かなえません」という謳い文句、昔流行った「家はまだ建てるな」みたいですね(笑)

小川の家は、長崎市内に事務所を構える工務店だ。従業員数5人と、規模は小さい。ただ、少しずつではあるが、全国的にその存在を知る人が増えている。3年ほど前からは、損益分岐点の年間4~5軒を超えて、年間10軒前後を安定的に受注できるようになった。

年間10棟前後を安定的に受注できるようになった「顧客の言うことを聞かない」工務店
マイホームの夢、かなえません 顧客の言うことを聞かない工務店

読んでいただくとわかると思いますが、経営者の「もうこんな住宅は建てたくない」という想いは、よく見かけるストーリーですし、建てている住宅も特に目新しいわけではありません。

大事なのは、少人数経営で年間棟数10棟未満の工務店が、自分が納得できる建てたい家を建てないでどうするんだ?という話です。

以前、「小さな工務店は99%の人に見向きされなくても1%の人に惹かれたら勝ち!」という記事を書きましたが、これはまさに嫌われる勇気ですよ。

目次

NEWSPICKSでの感想も興味深い

この記事に対するNEWSPICKSでの感想も興味深いですよ。いくつかピックアップしています。

顧客の言いなりにならないと売れない商品や営業マンは真の意味で必要とされていない。顧客自身が気付いていないニーズを探り当て、顧客に真の満足感を提供出来る商品、サービス、営業マン。異業種のお話ではありますが、大変勉強になりました。

一つのコンセプトをブレずに誠実に提供されています。
このコンセプトに納得、共感されている方には、素晴らしい住まいになると思います。

反面、多様なニーズには応えにくいかと思います。
僕とは全く逆のアプローチ。

住まいに求めているものは、人、家庭で様々。
その中で、施主の希望の裏にある本当のニーズはなんなのか、そこを何とか引き出し実現しようと努力しています。
だからこそ、以下の一文は許せない。

「施工主の求める「夢のマイホーム」をかなえる方が楽だろう。住みたい土地に、部屋数の多い間取りの家を建てれば済む。」

冗談ではありません。
そんな安易な発想で設計していると思ってほしくありません。
多くの設計事務所は、その中で暮らす人の幸せを考えて設計しています。

「私たちは住宅を売っているのではなく、心豊かで健康的な暮らしを売っている」と。石工の話しではないけど、こういう経営ビジョンはグッとくるね。そして「論語」とは逆の手で、客の家計を丸裸に把握してるのも商売人として素晴らしい。

小規模会社だから出来る勝負。全体のパイの1%の1%以下の超ニッチでも、年間で10件やれたら万々歳なら事業継続できる。
こういう闘い方好きです。

年間少棟数の工務店は多様なニーズには応えなくていい。

勘違いしやすいのは、多様なニーズに答えることが良いことだと思うこと。

設計事務所のように、アイデア勝負であれば、多様なニーズも受け止められるのかもしれません。また、瑕疵などの責任がまったくないとは言いませんが、工務店よりはリスクが少ないですから、あれこれしやすいです。職業柄・性格柄、同じものを作りたくない気性ですしね。

でも、施工する工務店側はそうはいかないのです。少棟数の工務店ほど、仕入れや作業などが多様化すればするほど、質は下がりやすいです。だから、年間10棟ぐらいまでは、周りに振り回されないで、経営者が納得できる建てたい家に絞り込んで、建てるべきです。多様なニーズに答えていくのは、棟数が増えたその後ですよ。

まずは、商圏内の規模を正確に捉え、自分が建てたい家を好んでくれる顧客はどのくらいいるか予測してみましょう。きっと、全体の1%以下だとしても十分な数を得られる思いますよ。

ただし、「自分が建てたい家」だけでは失敗する

顧客のニーズも考慮する

自分が建てたいと思う家を建てるのは、確かに魅力的で、それがビジョンや哲学に基づいている場合はなおさらです。特に小規模な工務店であれば、そのようなビジョンや哲学に従って、自分自身が納得できるプロジェクトに全力で取り組むことができます。しかし、そのようなアプローチだけでは、ビジネスとしての持続性や成長性が問われる場面も多々出てくるでしょう。

ビジョンがどれだけ素晴らしくても、それが市場で受け入れられなければビジネスとしては成立しません。顧客が何を求めているのか、そのニーズにどれだけ近づけるかも非常に重要な要素です。顧客のニーズを無視して自分だけのビジョンに固執すると、長期的にはビジネスが成立しなくなる可能性が高いです。

バランスが大事

自分が建てたい家と顧客のニーズは、必ずしも相反するわけではありません。実際、両方をバランスよく取り入れることで、より多くの顧客に受け入れられる独自の価値を提供できる可能性があります。例えば、エコフレンドリーな家を建てたいという自分のビジョンがあるなら、それを顧客にどうやって魅力的に伝えるかを考える必要があります。

顧客がその価値を理解し、求めるようになれば、ビジネスとしても成功する可能性が高まります。そのためには、自分のビジョンをしっかりと顧客に伝え、その上で顧客のフィードバックやニーズに応じて微調整をすることが重要です。

柔軟性が求められる

市場は常に変わっています。新しいテクノロジーやトレンドが出てくるたびに、顧客のニーズも変わっていくものです。そのため、自分が建てたい家というビジョンも、時には柔軟に変える必要があります。固定概念にとらわれず、新しい情報や顧客のフィードバックを取り入れ、ビジネスモデルを適宜調整することが成功への鍵です。

このような柔軟性が求められる背景には、特に小規模な工務店では、仕入れから施工、アフターケアに至るまで多くの要素が絡むためです。それぞれのステージで顧客のニーズに柔軟に対応できるかどうかが、ビジネスの成否を大きく左右する可能性があります。


「自分が建てたい家」を追求することは大事ですが、それだけではビジネスとしては厳しいでしょう。顧客のニーズを理解し、それに応える柔軟性とバランス感覚が求められます。自分のビジョンを持ちつつも、市場と顧客に耳を傾け、適切な調整を行うことで、長期的な成功が見込めるでしょう。そして、その成功は単なる数字の上昇以上のもの、つまり顧客が真に満足するような価値を提供できたという証明にもなります。

  • URLをコピーしました!
目次