金剛組が1400年の宮大工の技をもってしても潰れてしまったのは何故?

建築に精通している方は、ほとんどの方が知っていると思いますが、株式会社金剛組という、578年創業の世界最古の建設会社があります。

金剛組が1400年の宮大工の技をもってしても潰れてしまったのは何故?
社寺建築の金剛組

この会社は、聖徳太子が大阪四天王寺を建立するため、百済から招かれた宮大工の3人の内の一人、金剛重光が、578年、飛鳥時代に創業し、以来、1400年以上に渡り、日本の寺社仏閣建築の設計・施工、城郭や文化財建造物の復元や修理等を主に手がけています。

創業一四〇〇年世界最古の会社である金剛組の教えの中心にあるのは、今から約400年前、第32代当主であった金剛興八郎喜定が、遺言書として「職家心得の事」を残したものがあります。

「職家心得の事」  遺言書 第32代当主 金剛興八郎喜定

  1. 職学、稽古また押具足考について、陰陽五行の定様の故実、神社仏閣から俗家まで、儒教、仏教、神明の三教の考を、よく考え、心得なさい。これが職家の第一の得意である。
  2. 御殿ならびに武家のことは深く考えなくともよい。その主人の好に従うこと。
  3. 読書、そろばんの稽古をせよということについて。これは職家で一番必要なことなので、余念無く、一心に修行に励みなさい。このほか芸道は、それぞれの器量にあわせ、身分相応のことは学ぶべきだけれども、何事も、不相応な場席には立ち寄らないよう心得なさい。
  4. 世間の方々と交際しても、決して出過ぎることがないよう心得なさい。
  5. 大酒しない様に心得なさい。もし心得違いして付き合いと称して大酒などをすれば、思いかけず問題が起こる。身分立をかたくし増長すれば命を失う。能々見聞し慎みを持ちなさい。
  6. 身分以上の華美な服装はしないこと。
  7. 人を敬い、穏やかな言葉遣いをして、あまりしゃべりすぎない様に心得なさい。
  8. 内人、弟子にいたるまで、目下の人には深く情けをかけ、穏やかな言葉で召し使いなさい。
  9. 何事も、他人と争うな。
  10. 仮にも人を軽んじて、大言雑言を言わないようにせよ。
  11. どの人と接するにも慇懃にせよ。
  12. 世の中の役目には高下の差別があるが丁寧にせよ。
  13. 何事も諸事万端取引してくれる方々へは無私正直に対応しなさい。
  14. 家職を勤めるようになって、見積もり、入札等が発生したときには、すべて得とその先を糺して、差し障りがなければ、その年や時節に見合った値段を聞き合わせ、莫大な値段や高下の見積もりは決してしないこと。正直な見積りを書き付け、差し出しなさい。
  15. 何事も自身に不相応なことは、親類を集めて相談した上で、万事取り計らいなさい。

この戒律の根底にある考え方は、

「いつの時代に、誰に見られたとしても、恥ずかしくない仕事をする」

ということです。

1400年に渡り伝承されてきた宮大工の「匠の技」は、200年300年後まで持ち続ける日本の木造建築の技術でもあります。

宮大工の腕にかかっているその技は、マニュアルでは継承されず、各棟梁を頂点とする「組」ごとに、社寺の修復工事や再建工事に当たっていきます。

また、寺社仏閣の建築を行う宮大工は、完成した寺社に、工事関係者の名前を書いた「棟札(むなふだ)」というものを残します。この、「棟札(むなふだ)」は、建立(寺社仏閣の完成)したあと、次に見られるのは、解体作業の時なのです。つまり、短くても数十年、長ければ数百年間、誰の目にも触れないということです。

「いつか評価されるときに備えて、最高の仕事をすること。そして、それができる弟子を育てること」

それが宮大工の使命であり、棟梁の責任でもあるということです。

目次

ここまでの話だと素晴らしいように聞こえますが・・・

そんな世界最古とされる「宮大工の会社」に経営危機が訪れたのが2005年。

カネ儲けとは縁遠い職人気質の職人集団で、予てよりソロバン勘定が苦手だったところに、バブル期にマンションなどの一般建築に手を広げたことが致命傷となり負債が増大。

また、神社仏閣にもコンクリート建築が増加したことにより、大手ゼネコンとの価格競争に巻き込まれた結果、売上の減少や資金繰りの悪化により、経営危機に見舞われ、ついには、自己破産申請をせざる得ない状況に陥ってしまっているのです。

そこへ、「伝統は一度壊れたら二度と戻せない。金剛組をつぶすのは、大阪の同業者として恥や」と、大阪の中堅ゼネコン・高松建設が再建に乗り出し、経営陣が高松建設から送り込まれ、髙松建設の子会社として、新生金剛組がスタートします。

2006年には、その新・金剛組へ営業権を譲渡すると共に従業員の大半を移籍し、旧・金剛組は不動産部門のみを残して、株式会社ケージー建設に商号を変更。

1400年を超える金剛家による経営体制が事実上幕を閉じています。(ケージー建設は、自己破産申請し、翌年法人格抹消。6月23日付で解散。)

良いものを作るためには、とかくコストを度外視して仕事に没頭してしまう棟梁たち。

金剛組が1400年の宮大工の技をもってしても潰れてしまったのは、その経営の難しさと、時代の変化に対応する能力が足りなかったのかもしれません。

工務店経営でも同じことが言えるでしょう。

  1. 経営の難しさ: 金剛組は、その職人気質から、経営におけるソロバン勘定が苦手でした。つまり、彼らは技術者としてのスキルは非常に高かったものの、ビジネスとしての経営能力には欠けていました。これは、工務店経営者にとって重要な教訓です。技術的なスキルだけでなく、経営における財務管理や戦略的な思考も必要とされます。
  2. 時代の変化への対応: 金剛組は、バブル期に一般建築に手を広げ、その後のバブル崩壊により大きな打撃を受けました。また、神社仏閣の建築においても、コンクリート建築が増え、大手ゼネコンとの価格競争に巻き込まれました。これらの事例から、時代の変化に対応する能力が経営においては重要であることがわかります。市場の動向を見極め、適切なタイミングで事業展開を行うことが求められます。
  3. 価値観の違い: 金剛組の職人たちは、最高の仕事をすることを最優先に考えていました。しかし、ビジネスとしては、コストと品質のバランスが重要です。コストを度外視して品質だけを追求すると、経営が成り立たなくなる可能性があります。これは、工務店経営者にとっても重要な教訓です。品質を維持しつつも、コスト管理にも注意を払うことが求められます。

これらの教訓を活かし、工務店経営者は自社の経営を見直し、より良い経営を目指していきましょう。

Kongogumi 金剛組 “From Asuka Period to Future” – TEDxSeeds2009

【特集】親方と19歳の弟子…日本最古の企業「金剛組」1400年の”宮大工の技術”を継ぐ(2021年3月2日)

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