小さな工務店が金融機関・支援機関等などから評価されるために必要なこととは?

以前、「工務店の数が減っていく時、何が評価される時代になるか?」という記事を書いたのですが、これは一般客目線と言いますか、家を建てる人の視点を考察したものです。

では、BtoBと言いますか、金融機関・支援機関等などから、企業として判断する視点でみた場合、どの様な視点があるのでしょうか?

目次

工務店が金融機関・支援機関等などに信頼されることが必要な理由

注文住宅メインの小規模工務店では、銀行などの金融機関に頼らず、資金繰りをしている工務店が意外と多かったりします。「無借金経営=正しい」「借金はしてはいけない」という先入観があるようです。

経営(社長)におけるお金との付き合い方は、一般論とは異なりますので、また、工務店業は、大きなお金の出入りがあるので、お客さんとの信頼関係をつくることと同じように、金融機関や支援機関等との信頼関係をつくることも、経営手腕として必要になっていきます。

例えば、とある工務店の例だと、契約する度に短期借入することで、支払と入金の谷間を事前にカバーしています。もちろん、竣工すればきっちり返します。こうすることで、何より心配ごとが減り営業に集中できます。

そして、資金繰りのために無理をした受注も必要もなくなります。過度な値引きや、過度な要望に応えた、無理をした受注は、思った以上に利益が残らなくなったり、トラブルもおきがちですからね。

こういったお金を借り方は、借入であり、借金とは意味合いが異なります。

これを繰り返しながら受注状況や予測を、銀行に伝えることで銀行との関係性が深まります。

もちろん、支払期日を破れば、信用は下がります。信用が下がったことで、融資を突然打ち切られ、運転資金が足りず、後に倒産した住宅会社もいます。

・・・それは銀行が悪いのか?

いえ、銀行は保守的にルールを守って仕事をしているだけなので、正しく経営計画できていなかった経営者の責任になります。

中小企業の経営手法「知的資産経営」

経営ということで色々と情報収集していると、2017年頃から、中小企業の経営手法として、「知的資産経営」という手法が出始めているようです。

知的資産経営(ちてきしさんけいえい)とは、人材、技術、組織力、顧客とのネットワーク、ブランド等の目に見えない企業に固有の資産を知的資産として認識し、有効に組み合わせて活用していくことを通じて収益につなげる経営手法のことである。

wiki

自社の独自の価値や強みにフォーカスしたやり方ですね。

特許やノウハウなどの「知的財産」だけではなく、組織や人材、ネットワークなどの企業の強みとなる資産を総称する幅広い考え方を指すため、

  • 人材
  • 技術
  • 組織力(従業員の士気等)
  • 顧客とのネットワーク
  • ブランド

などの創造や活用が、企業の優位性や競争力に影響を与えているとされています。

これにより、

  • 顧客に対しては、信頼性やブランド価値の向上
  • 取引先に対しては、取引量や取引内容の優遇、新規取引の拡大
  • 金融機関に対しては、資金調達の可能性が拡大
  • 従業員や就職希望者に対しては、やる気や愛着の向上、優秀な人材の採用

といった可能性が高まります。

Wikipediaを見る限りだと、経済産業省も行政書士会も推奨しているようですね。

2017年頃から言われ始めたようなので、新しい様に感じますが、本質的には、

  • 経営者自身のブランディング
  • 提案する住宅のブランディング
  • 会社のブランディング

にも絡むことです。

各方面に対して開示する方法でもある。

小規模の会社の場合、従来の決算書(財務諸表)を中心とした評価では、本来の価値を知ってもらえないことも多いはずです。

また、経営者はわかっていたとしても、顧客・取引先・金融機関・従業員など、周りの人が必ずしもそれを知っているとは限りません。

なので、財務諸表に加え、非財務の情報(自社の持つ知的資産の優位性)を伝えるため、「知的資産経営報告書」を作成し開示して、自社の価値を知ってもらうというものです。

一例ですが、こんなフォーマットになっているようですね。

  1. 代表挨拶
  2. 事業概要
  3. ビジネスモデル俯瞰図
  4. 商品・製品・サービス
  5. 現在の知的資産経営ストーリー
  6. 人的、構造、組織資産
  7. 当社の業績を支える強み
  8. 今後の方向性
  9. ◯年後の知的資産経営ストーリー
  10. 今後強化すべき強み
  11. 数値計画
  12. アクションプラン・KPI
  13. スタッフ紹介
  14. 企業概要

経営に限らず、マーケティング分野でも、あぶり出す方法は用いられますが、この手のあぶり出す手法、苦手な人も多いんですよね(笑)つい、その場しのぎでやってしまったり・・・

また、これはあくまで現状を映し出す手法なので、何もない(魅力がない)と上手く映し出せないという欠点もあります。

何が価値になるのか?

知的資産経営は、バランスシートに載らない資産など、強みに焦点を当てるやり方なので、方法自体に画期さがあるわけでもありません。

開示するしないは別にしても、知的資産経営の手法からわかることは、顧客・取引先・金融機関・従業員など、各方面に対して何をしていくか?ってことです。

なので、上記のように現時点の強みをあぶり出すのもいいですが、各方面に対してできることのレベルを上げていくことも必要だと思っています。

顧客に対しては、商品やサービス内容の質の裏付け

顧客に対しては、「この会社の住宅は良いのだろうか?」という信頼のレベルアップでしょう。

「信頼」とは、対象を高く評価し、任せられるという気持ちをいだく意を表すこと。

求められるのは、人、技術、顧客満足度、公的機関や第三者機関からのデータなど、「商品やサービス内容の質の裏付け」といったところでしょうか。コミュニティといった繋がりも信頼から生まれるものですしね。

例えば、こんなのもあると思います。「広告費をお客様に負担させない」住宅業界でよく見かける謳い文句です。

「余計な経費を掛けないで、固定費を下げ、安く提供する」という考えは、素敵だと思いますし、各々の経営判断なので、否定するつもりもありません。

ですが、本来いくらのものが、いくらになっているのか?そのコストカット分がどれだけなのかを具体的に提示している人はいません。闇にするのではなくて、そういう言葉の裏付けまで、ちゃんとしている方が、信頼を得やすいと思いますよ。

取引先に対しては、取引することのメリットの裏付け

取引先に対しては、「この会社と取引してもいいだろうか?」という信用のレベルアップでしょう。

「信用」とは、うそや偽りがなく確かだと信じて疑わない意を表すこと。

どんな事業を営んでいるか、技術やサービスの良さ、経営理念、経営状況、販売力、周りからの評判など、「取引することのメリットの裏付け」といったところでしょうか。

金融機関に対しては、成長力や将来性の裏付け

金融機関に対しては、決算書(財務諸表)だけでなく、将来性が求められるでしょう。

経営理念、キャッシュフロー、研修や新商品の開発など将来への投資、販売力など、「成長力や将来性の裏付け」といったところでしょうか。

従業員・就職希望者に対しては、企業の魅力・安心感の裏付け

従業員・就職希望者に対しては、「小さな会社だけど大丈夫?」という不安をなくし、希望を持たせることでしょう。

経営理念や将来性、企業姿勢、事業の優位性、就業規則、福利厚生、従業員の評価基準など、「企業の魅力・安心感の裏付け」でしょうか。

シンプルに考えたら・・・

シンプルに考えると、「ヒト、モノ、カネの質を高める。」つまり、

  • ヒト:経営者自身のブランディング
  • モノ:提案する住宅のブランディング
  • カネ:会社のブランディング

ってことだと捉えています。

ヒトのところに従業員を入れていないのは、他人を変えるのは一番コントロールができない分野だからです。

変えようとするのでなくて、経営理念や将来性、企業姿勢、事業の優位性、就業規則、福利厚生、従業員の評価基準などといった仕組みや環境で、変われる方向にもっていくか、その環境の魅力に惹かれる魅力的な人を採用するかになるでしょうね。

工務店も事業性が評価される時代になる!

金融庁の検査官が、金融機関の検査を行う際に用いるマニュアル「金融検査マニュアル」というのがあるのですが、これが2018年度終了後をめどに廃止されています。

つまり、検査マニュアルが無くなり査定がなくなったことで、各機関の経営判断を尊重して改善を促すという、金融機関の経営が自由になったということなのです。

日本経済新聞の「令和元年、銀行は前向くか 検査マニュアル廃止の意味」を読む限りだと、銀行経営にも、

  • どんな哲学(ビジョンや使命)で経営をするのか?
  • 将来の予測と展望に基づいて取引しているか?
  • 現場に軸足を置く経営の仕組みをつくれるか?

といった点が求められることを挙げられています。とはいえ、保守的な業界ですから、ゼロから改革をすることなんてまずないでしょう(笑)

ただ、こういった変化は、借入をする中小企業にも影響があるわけです。色々な専門家の記事を読むと、銀行が融資する時の判断基準が、

  • 過去の実績で融資に関する判断 → 事業性を評価し判断

へと変わっていくことを書かれています。

事業性を評価し判断する「事業性評価」

上記の、経済産業省も行政書士会も推奨している「知的資産経営」の他には、「事業性評価」などもあります。

事業性評価とは、財務データや担保・保証だけに依存することなく、融資先企業の事業内容や成長可能性などを適切に評価することを指します。

つまり、どれだけの収入を得て、どれだけの収益を確保できるのかを、事業全体から捉え、将来的にどのように成長するのか見極めることでもあります。

これまでは決算書などの数値や担保・保証だけで、企業の評価が決まることが多かったのが、数値で表わすことができないものも評価基準となっています。

評価項目は金融機関によって多少異なるでしょうが、以下のものが挙げられています。

事業性評価の項目

  1. 会社概要
  2. 組織図
  3. ビジネスモデル(商流)(収益の源泉)(部門別採算)
  4. 内部管理モデル(業務フロー)(収益等管理状況)
  5. 市場と競合環境(価格競争力)(差別化)(独自性)
  6. 財務・資金繰り・借入の状況
  7. 設備投資計画
  8. 強みの把握
  9. 経営者
  10. 経営課題と経営方針
  11. 経営計画の概要

項目に「経営者」とあるのは「どんな人?」という評価のようです。出身校や趣味など一見融資には関係ないように思えますが、「どんな人が」「どんな企業を」「どのような思いで」経営しているのかという点も評価の対象になっているということでしょう。

ストック評価からキャッシュフロー評価へ=儲かる経営体質が必要

また、どれだけの収入を得て、どれだけの収益を確保できるのかを、事業全体から捉え、将来的にどのように成長するのかが評価対象なわけですから、今後得られるであろう最終損益の見込額を前提に企業価値を評価していくことと思われます。

つまり、「決算書などの数値や担保・保証=ストック評価」から、「事業の収益性や将来性、成長性=キャッシュフロー評価」に変化していくということです。

事業実態が明確な企業には、積極的に融資やサービスを提供する、という基準を設けることでもありますので、財務基盤が弱い中小企業にとってはチャンスです。

ということならば、より「健全な経営体質」にする必要があるということです。

事業性評価が重要視されるということは、事業活動の本質を見極められますので、事業としてのビジョンや、具体的な活動指針が求められます。

さらには、

  • 資金調達
  • 仕入・生産活動
  • 商品
  • 販売活動
  • 資金回収
  • 返済原資

といった事業サイクルから、将来予測に基づく3~5年後の返済原資の見極めも影響してくるでしょう。

経済産業省では「ローカルベンチマーク」

その他、経済産業省では、「ローカルベンチマーク」という、企業の経営状態の把握する手段として、非財務情報を可視化する評価方法もあります。

そのローカルベンチマークの項目には、「財務情報」として6つの指標と「非財務情報」として4つの視点があります。

ローカルベンチマークの項目

6つの指標

  1. 売上高増加率(売上持続性)
  2. 営業利益率(収益性)
  3. 労働生産性(生産性)
  4. EBITDA有利子負債倍率(健全性)
  5. 営業運転資本回転期間(効率性)
  6. 自己資本比率(安全性)

4つの視点

  1. 経営者への着目
  2. 関係者への着目
  3. 事業への着目
  4. 内部管理体制への着目

より「健全な経営体質」にする必要がある!

不摂生が元で不健康になった人が、健康な体になるのに、「このサプリを飲めば・・・」「今日、運動すれば・・・」なんて、一朝一夕で変わるものでもありません。不摂生なら、体質から改善していかないと、健康になるのは難しいことです。運動、食事、睡眠・・・日頃からやることの積み重ねが、体質を作っていきます。

経営も同じことで、黒字体質にするなら、黒字体質を作るための運動、食事、睡眠って、何でしょう?というお話です。

「事業性が評価される」ということは、「良い家をつくってるから良し」ではなくて、事業として成り立つことを求められているということです。つまり、より「健全な経営体質」にする必要があるということです。

そのためには、非財務情報も充実させていかないといけないわけですから、集客やマーケティングばかりに目を向けてないで、もっと「社長業」、つまり「BSの仕事」をしていきましょう。

健全な経営体質の話をすると、目の前の売上が大事だから、そんなの後でいいって思われがちですが、正しい行動をしていくには、大事な部分ですよ。

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